自己疎開

またここへ来てしまった、と思ったけれどそんなふうに思う必要なんてどこにもなかった。そうだった、私はここへ毎日来ている。たぶん、本当は、ずうっとここにいる。むしろ私自身がここなのかもしれないくらいに。

満月の泉が見当たらなくて実感が持てないまま、それでも私は余りにも白が広がっているだけのこの場所で言葉を積み上げて、積み上げて、積み上げて、誰にも気づかれることのない築城に耽る。私が目を離した隙にその城は音もなく消えてここだけが残る。私が生きていることを証明するかのように。

 

毎朝、彼に向かって「いってらっしゃい」が上手く言えない。「逝ってらっしゃい」になってしまう気がして口に出していいのかも分からなくなる。代わりに「じゃあね」と言ったら本当にお別れみたいで苦笑されてしまった。気をつけてね、とも言ってみるけれど、戦場に送り出すのになんて無力な言葉だろう。

四季が移ろうその裏で、死期が虚ろになっていく。早かれ遅かれいつか死ぬと知っていながらもそれが今日かもしれないと思っていないのは、思わないようにしているからだろう。昨日見かけたぺちゃりと死んでいた鳥はいつから死んでいたのだろう。

なんとなく「虚ろ」と調べてみたら“中身ががらんどうになっている所。うろ。ほら。また、そういう状態。”と意味が出てきたのだけど、「ほら。また、そういう状態。」の部分に今の私を見抜かれたのかと思ってどきっとした。

 

もうすぐ春が来る。まだ桜の木の下に埋められるわけにはいかない。